法 華 寺

本堂内陣の桃山様式の須彌壇上には、本尊十一面観音立像が祀られている。興福寺濫觴記には、印度の健陀羅国王が観音菩薩生身のお姿と言われる光明皇后を写すべく、同国第一等の彫刻家を日本へ送り、三体の観音像を刻み、うち一体を日本に残したものがこの観音立像であると記されているとのことだ。そのような言い伝えのあるこの十一面観音像は、唐の檀像様式を受け継いだ素木の一木彫成で、蓮華の光背を持つ一メートルの高さの仏像である。二十数年前に見たときの記憶よりは小さいと感じる。これは初めて拝観したときの印象が強く、その後写真等でなんどか見るにしたがって、記憶のなかの観音像が大きくなっていったものと思われる。印度的なお顔立ちの表情が時に厳しく見える印象があったが、実際に御堂の中の薄明かりの中で拝するお顔は、崇高でかつ上品であり肢体のバランスも絶妙である。左足を軽く曲げてその足首を少し上げておられるのは、蓮の橋の上で立ち止まっているお姿と言われる。右手が異常に長いのは、衆生に救いの手を伸ばすためとのことである。そのやや赤みがかった木目の色調と相俟って、誠に見事な観音様である。光背は蓮の蕾と葉が、一本毎に造形されているのも珍しい。御仏の御前に坐して、御仏を静かに拝していると、急に御仏が光明を放つがごとく明るく見えてきた。目が慣れたせいか、それとも屋外の陽が急に照り始めたためかは判らないが、御仏が私のほうに向けて光芒を放たれたのかと思ったほどであった。

    ふちはらの おおききさきを うつしみに

          あひみることく あかきくちひる    秋艸道人

 法華寺よりタクシーを拾って、平城京左京三条二坊宮跡庭園へ行く。この庭は史跡文化センターの裏にあり、板塀で仕切られている。約五十五メートルの南北に長い曲水の庭で、北端の沈殿池より水が龍池に流れるようになっている。池底と護岸は敷石が施され、汀に松、池中に菖蒲を配している。この庭の北側には長屋王や、藤原鎌足の子・不比等の邸が、また南には藤原仲麻呂の邸があった由。庭と言うよりは曲水の流れを眺めて楽しんだ、と言う感じである。

帰りは西大寺までバスで出て、西宮へ帰る。

法華寺 本堂

 

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